『放置民市』 1-(1)

『放置民市』1-(1)

ここは放置民市と言う。ヴェトナムのホーチミン市に似ているが全く別の街である。ちなみに姉妹都市はカザフ共和国の首都アルマアタである。
 設定は200x年になる。

 常々不思議に思い続け、いまだに自分なりに納得出来ていないことがある。それは、こんな辺境にある街を3者入り乱れて取り合いしてきた血塗られた歴史に関することだ。所払いの刑でこの街に幽閉されるに至ってもう捨年くらいになるが、この街に関するこんな肝心なことも依然として不明のままだ。住人に聞いたところでどいつもこいつも出稼ぎ野郎ばかりで、「そんな事よりお前!少しか金をくれ!金を!」と目先の事ばかりで誰もそんな事は気にはしていない。

 ずっと人間はより良き明日を夢見て、明るい未来を信じて、日々努力して生きているもんだとばかり思っていたが、ここの市民は合法民、非合法民を問わず、そんな事など考えた事など無いような連中ばかりである。明日の事などどうでも良く、今日、今、この一瞬を楽に過ごせれば良いという目先の快楽主義者ばかりである。連中は我慢という言葉すら知らないかの様に生き急いでいる。

 地球規模とまでいかなくても少し大局的にこの街を眺めてみると体制側からは完全に放置されている。だからまぁ放置民市というのがこの街の名前であるわけなのだが。