風に訊け!

あれは限定解除する前後の年の春休みの夜。

母親との諍いはしょっ中あったが、面と向かって
父親との喧嘩はあまりしたことが無かった。
どこかで親父を失望させたくないという思いがあったのかもしれない。

ある春休みの夜に親父と口論になり、
捨て台詞を残して吉村の集合管付の山葉に乗り夜の街へ走り出した。
故郷の町を流れる川の上の大橋に山葉を止め、
ポケットから取り出した手紙をビリビリに破り河に巻いた。

その手紙はその実、恋文に対する返信で
別れを告げるものであったのだ。
 彼女とは一時期子供の恋愛感情をお互いに抱いたり、
それなりの精神的な交流はあったのだが…。
 複数あった初恋の一つであったのは事実である。
幼稚な交際をしていた時期もあるし、実家に初めて連れて行った
異性でもあった。

その後で対岸の本屋に行き(当時深夜営業の本屋は限られていた)
立ち読みをしていた時に出会ったのが
開高健の『風に訊け!』であった。

週刊プレイボーイに連載されていたものを単行本として
売り出したものであった。
確か上下巻の2部構成であったと思う。

明け方黙って家に帰った。

蒸し暑い今頃の季節になるとあの頃(なぜか冬の終わりなのだが)
のことを想い出す。