Émile Zola "L'Assommoir"

Émile Zola "L'Assommoir"
エミール・ゾラ『居酒屋』
新潮文庫
895円+税
古賀照一訳

ついにゾラにまで手を出すことになってしまった。
しかしこの『居酒屋』もいつ読了することになるのか?
自分でもわからない。

罪と罰』のときは読了まで4年以上かかり、そして今でも
その本質的なことには到達できていない。
カラマーゾフの兄弟』は読み始めて数年が経っているが
全然進んでいない。

『居酒屋』の最初の方にこんな一文が出てくる。

【人気のない通りの角や、湿気と塵埃とで暗くて陰鬱な物陰を、
 目で彼女はさぐる。】

訳者が悩んで日本語に単語を置き換えているだけなので
原文の持つ雰囲気がそのままではないとは思うが、
これだけでも文学についての怖さと楽しさが味わえる。
結局は書く方も読む方も自分自身の価値観や経験則によって
自分なりの理解と情景を作り出すしかないのである。

【人気の無い通り】
【湿気と塵埃とで暗くて陰鬱な物陰】

というこの二つの情景だけも千差万別である。
これがパリという街に限定された話だとしても
それぞれが勝手な想像を膨らませるしかない筈だ。
パリのある通りだと限定されて本当にその通りを見たことが
ある人がいたとしても、この小説が書かれた頃の情景については
やはり想像を膨らませるしかない。

パリに久しぶりに行きたい。

【陰鬱な物陰】

これだけで十分に憂鬱なのである。
憂鬱と直接関係無いのは【な物】だけであるが、
【物】自体の存在もまた憂鬱の原因であるとすれば
憂鬱と関係無いのは【な】だけである。