Saigon

Saigonの元々の名前の由来を調べるがなかなか判然としない。
中華系の人がつけた西貢という字も音に合わせて
漢字を当てただけらしい。

サイゴンという街の名前はずっと特別な地名であったが
その割によく知らないでいた。

25年以上自分で勝手にイメージを膨らませていただけだ。

或る日の朝、
大渋滞のサイゴン市内を抜けこれまた大渋滞のサイゴン大橋で
サイゴン河を渡り北東方面に向ったところでクルマが止る。
右手数M先には路上に展開された朝飯がある。
風呂場の椅子くらいの高さの椅子に座って
みんな朝ごはんを食べている。

こちらを向いた爺さんの前に孫がいる。
孫は我々にお尻を向けてしゃがみこんだ。
孫はいきなり雲古をし始めた。
先の方は少し硬めの濃い茶色で途中から軟らかい色に
変わったその雲古を出す様をわずか数秒とは言え
見た。
路上に展開される剥き出しの生。

食べる、呑む、寝る、そして出す。
とってもシンプルな生。
それがどこでも路上で剥き出しなのだ。

さてどうしても久々に開高健の文章が読みたくなり
協力者の方に無理を言って手配していただいた。

今回は第2便で『輝ける闇』と『夏の闇』を無事受け取ることが出来た。
『夏の闇』は何度も読み返したが『輝ける闇』を読み返すのは
かなり久し振りのことである。

サイゴンの空港で読み始めた。
安全検査を終え、搭乗を待つ間食堂でゆっくりと読み続けた。
単純ではあるが麦酒333を2本呑みながら
開高健の文章を久々に味わった。

「朝起きるとそこはヴェトナムだった」
の元凶はその実これら開高健の文章…それも25年以上も前に
刷り込まれた呪文によるものなのである。